お知らせ
てんかんの誤った情報の訂正を出版社に求めました。 2024.08.26
本年7月に出版された次の書籍の中に、道路交通法に関連して、てんかんのある人に不利益となる表現があり、8月23日付け文書にて、出版社に内容の訂正を求めました。
「みんなが知りたい 意識障害がわかる本」
監修 一般社団法人日本意識障害学会(加藤庸子、黒岩敏彦)
総括編集 永山正雄
発行 西村書店 2024年7月23日初版第1刷発行
定価 1,800円+消費税 B6変型判、176頁、ソフトカバー付
この書籍は、主に遷延性意識障害をテーマにしているもので、その中に、てんかんに関する記載が随所にあります。
多くの部分では適切な内容が記されているのですが、私たちが問題視する内容は、
16章「てんかんを起こしたら車の運転はできないの?」
に突然次のように現れます。
≪120頁の3~5行目≫
「(前略)てんかんのある人は車の運転はできないのでしょうか。
答えは、原則としてできません、です。
道路交通法では、てんかんにかかっている者には運転免許を交付しないこと、
となっています。(後略)」
※マーカー部分は、強調編集されています。
1900年代の、絶対的欠格事由が当たり前であった頃を彷彿とさせる表現です。
道路交通法では、疾病や障害だけを理由に運転免許証を交付しないことはありません。
これは、2001年の、総理府(当時)による、国内の欠格条項の見直しにより、絶対的欠格から相対的欠格に多くの法律・制度が見直されたことによります。
その中で、「一定の病気等に係る」条項があり、安全な運転が保たれない症状がある人には、運転免許証を交付・更新しないことができる、としています。
まず、これが基本です。
その症状の中には、「意識を失った」「身体が思うように動かせなくなった」「眠り込んでしまった」などがあり、過去5年間にこれらの症状があった場合、臨時適性検査の可能性が出てきます。
そして、これらの症状の原因が、てんかんであった場合は、過去2年間以内に症状があったことや主治医からの指導など(診断書、意見書)によって、運転免許証の不交付、返還などが生じることがあるのです。
つまり、てんかんと診断されたからといって、すぐに自動車運転ができなくなることはありません。
てんかんは、さまざまな症状のある脳疾患です。全国に、100万人の患者さんが推定されています。意識障害や運動障害の状況、服薬等による発作の改善、そして一人一人が異なる生活環境にいます。全体の7割超で、発作症状が改善しています。もちろん、意識障害などを伴わない発作もあります。
現在、この本は初版本4,000部が出版され、この誤った情報が多くの人の目に触れる状況にあります。この情報によって、てんかんのある人の社会生活に不利益が生じることを危惧します。
私たちは、病気や障害のある人の社会参加を推進する厚生労働省、道路交通法を所管する警察庁とも情報共有を行い、全国で不適切な対応が生じないよう支援をお願いしました。
その上で、この本の発行元である西村書店に対して、本年8月23日付け文書にて、誤った情報を発信続ける出版社の社会的責任についての説明機会と、内容の訂正を求めました。
私たちは、この本の回収や廃刊を求めてはいません。
てんかんがあっても夢を追い続け、社会生活を懸命に送る皆さんを応援こそすれ、足を引っ張ることにつながるような、誤った情報を発信し続けず、責任をもって誤りを認め訂正情報を発表することを望んでいます。
【追記】
※誤った情報が掲載された第16章のタイトル「てんかんを起こしたら…」について。
「てんかん」は病気の総称で、「起き」ません。現れるのは、てんかん発作のさまざまな症状です。正しくは、「てんかん発作(の症状)が起きたら…」です。病名と症状が混同している、こうしたところにもてんかんに対する誤解が潜んでいると言えます。